『今までの換気扇の掃除は、一体何だったのか』 ーー と思うほどの効果
年末の換気扇の掃除は、憂鬱でした。
私は、換気扇を分解して、屋外にもっていて、石油を使って洗い流すことにしていたのですが、石油の匂いは臭いし、外は寒いし、手は冷たいしで ーー まあ、結構辛い作業だったのです。
嫁さんに相談したところ、嫁さんが、いわゆる「大掃除用の各種の物品」を購入していたので、それを試してみました。
―― びっくりしました

洗剤でも灯油でも落ちなかった10数年来の油汚れが、嘘のように落ちました。
50~60度の温度のお湯に溶かした溶液に、換気扇のパーツを突っ込んで、2時間くらい放置しておいたら、水が真っ黒になって、ブラシで擦ったらボロボロと油の塊が剥れていいました。
この「セスキ」とは何だ? と、思い調べてみました。
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この「セキス」とは何ですか?
写真の「セキス」は、**「セスキ(炭酸)」**のことで、正式には セスキ炭酸ソーダ(英:sodium sesquicarbonate)を指します。
セスキ炭酸ソーダとは
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弱アルカリ性の洗浄剤
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炭酸ナトリウム(ソーダ灰)と重曹の中間的な性質
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合成界面活性剤を含まない、比較的安全性の高い洗剤
何に使うものか
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油汚れ(換気扇、グリル、フライパン、写真のような金属フィルター)
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皮脂汚れ・手垢
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軽い焦げ付き
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消臭(生ゴミ周り、布製品など)
写真では、換気扇やレンジフードの油汚れを落とす目的で、セスキ水に浸け置きしている状態に見えます。用途としては非常に典型的です。
重曹との違い(簡単に)
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重曹:弱アルカリ(穏やか、研磨向き)
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セスキ:重曹よりアルカリ性が強く、油汚れに効く
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炭酸ソーダ:さらに強い(扱い注意)
注意点
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アルミ、銅、真鍮などは変色する可能性あり
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長時間の浸け置きは避ける
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ゴム手袋推奨(手荒れ防止)
要するに、この「セキス」は
「油汚れを安全寄りに、しかし重曹より強力に落とすためのアルカリ洗浄剤」
です。
いままで、灯油とかを使って換気扇を洗っていたのですが、嘘のようにこびりついた油が落ちていきました。この効果を化学的に説明して下さい。
とても良い観察です。
これは「気分的に落ちた」ではなく、化学的に見て必然的に起きている現象です。以下、仕組みを整理して説明します。
1. 換気扇の「こびりついた油」の正体
換気扇の汚れは、単なる油ではありません。
実体は次の混合物です。
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食用油(トリグリセリド)
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空気中の酸素によって酸化・重合した油
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調理中に付着したタンパク質・糖分
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微粒子の煤(すす)
時間が経つほど、
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油は 酸化 → 重合 → 樹脂状化
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粘度が上がり、疎水性が強くなる
つまり、
「水にも溶けない、灯油にも溶けにくい半樹脂」
になっています。
2. 灯油が効きにくかった理由(溶解モデル)
灯油は非極性溶媒です。
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新しい油(非極性) → よく溶ける
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酸化・重合した油 → 極性官能基(–COOH, –OH)を持ち始める
結果として:
「非極性溶媒(灯油)」
vs
「半分は極性を帯びた劣化油」
となり、溶解力が急激に落ちる。
さらに灯油は:
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表面を濡らすだけ
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削らないと奥まで入らない
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揮発が遅く、再付着しやすい
という欠点があります。
3. セスキが「嘘のように落ちる」理由(反応モデル)
セスキ炭酸ソーダは 弱アルカリ性(pH ≈ 9.8)。
ここが決定的に違います。
(1) 脂肪酸の中和反応
劣化した油には、**脂肪酸(–COOH)**が大量に含まれています。
そこにアルカリが来ると:
つまり、
こびりついた油そのものが、界面活性剤に変わる
これが最大のポイントです。
(2) 乳化・分散が自動で起きる
生成した石けんは:
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油を包み込む
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水中に分散させる
結果:
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「剥がす」ではなく
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「自壊して流れ落ちる」
という挙動になります。
だから、
「こすってないのに、勝手に浮いて落ちる」
と感じるわけです。
4. 浸け置きが効く理由(拡散と時間)
セスキ水では、
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アルカリが金属表面の微細な隙間に浸透
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酸化油の内部まで拡散
-
内部から中和・乳化
これにより、
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表層から剥がす灯油
-
内部から崩すセスキ
という決定的な差が生まれます。
5. なぜ「嘘のように」見えるのか
理由は心理ではなく物理です。
| 灯油 | セスキ |
|---|---|
| 溶かすだけ | 化学反応を起こす |
| 表面処理 | 内部破壊 |
| 再付着しやすい | 水で流れ去る |
| 力仕事 | 時間が仕事をする |
人間は「反応」を見ていなかっただけで、
実際には、油が自分で壊れていく。
6. 一言でまとめると
灯油は「油を溶かそうとしていた」
セスキは「油を化学的に別物に変えていた」
この違いです。
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値段も500円程度で、安全性も高い ーー 灯油で苦労していた10年以上の月日がバカみたいです。

換気扇カバーのサイズが洗面器に入り切らなかったので、100均ショップに行って、大き目の洗濯カゴを購入して、そこに120リットルサイズのビニール袋で覆って、そこに、セキスの溶液を作って、換気扇カバを突っ込みました。
みるみるうちに、透明の溶液が真っ黒になりました。
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こういう、化学の実験を兼ねた家事は楽しい ーー と、実感しました。
