パリの平家物語
何年か前に、学会聴講でパリに行ったときのことです。
モンパルナス・タワーの最上階で、クロワッサンの朝食を食べて(貸切状態)、結構幸せな気分になりながら、モンパルナス地区を、てくてく歩きながら、ホテルに帰る途中、モンパルナス墓地に寄りました。
ボーヴォワールやサルトルの墓を見ておくのも、一興かと思いまして。
私はついぞ、彼等の著書を読むことはありませんでしたが。
学寮の管理人の叔母さんから『ボーヴォワールくらいは読んでおきなさい』と言われていたのですが、ボーヴォワールやサルトルについては、彼等が「事実婚」であった以上の知識はなく、現在に至っております。
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私は墓地の雰囲気は結構好きな方です。
結構寒い冬の午前でしたが、そこそこ人もいました。
しかし、歩いているうちに、モンパルナス墓地の人気のないエリアにさまよい込んでしまいました。
そこには、すでに管理が放棄され、何百年も放置されていたであろう巨大な墓の建造物がいくつも立ち並んでいました。その大きさたるや、私の部屋よりも大きなものでした。
その規模や作りから、当時、相当な財力を誇った貴族の所有していたであろうことが推認される墓でした。
しかし、100年単位で放置されて、崩れかけた巨大な石の建造物は、それゆえ、朽ち果てることもできず、その醜悪な態様のまま放置され続けていました。
子々孫々その栄華が果てしなく続くことを信じて、その建造物に埋葬されているであろう者達の想いは、安らかであるのか否か。
栄華の果ての没落に、その存在を自ら消し去ることもできない悲運に、「盛者必衰の理」が胸に去来しました。
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欧州の華やかな街の中で、平家物語に思い馳せるという、奇妙な時間に幻惑された一時でした。