2012,江端さんの忘備録

皆さんが「安全」と考えているものと、制御システムで定義されている「安全」は、随分違います(が、今日はこの話はしません)。

今、「原子力安全工学」という資料を読んでいるのですが、なかなか怖い記載があったので、一部ご紹介など。

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■スリーマイルアイランド原発事故においては、

設計時には想定されていなかった運転員のエラーにより事故が発生し、中央制御室は、100を越える警報が一斉に点灯して、何が起きたのか判断できなくなる状態になったそうです。

これを、「クリスマスツリー(警報雪崩)」と呼ぶのだそうです。

映画では良く登場するシーンですが、できれば、こういう「微笑ましい」とは対局にある光景を見ることなく、一生終えたいものです。

ともあれ、多重安全設計で「がんじがらめ」にされている巨大システムが、ささいな運転員の操作ミスで、驚くほど呆気なく崩壊していくという、最良の実施例を提供することになりました。

比して、

■福島原発事故においては、

全電源喪失となり、いわゆる

「逆クリスマスツリー(警報無言)」(命名 江端)

となった訳です。

今まで、ピカピカ点滅していた装置、監視用モニタ、そして原発の健全性を証明する計器が、一瞬で全部沈黙。

叩こうが蹴ろうがピクとも動かない。

こっちも、映画では良く登場するシーンです。

映画の場合は、スリル感を盛り上げるために、徐々にシステムが壊れていくシナリオになりますが、こちらは、映画よりももっと壊滅的。

これでもか、これでもか、というくらいに、うんざりする程、多重に準備されたバックアップ電源が、津波による水没で一気に(多分1分内くらいで)全滅。

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制御システムに関わる者として、また、既婚者として、「クリスマスツリー」も「逆クリスマスツリー」もいりません。

何も起こらない、普通の日常が一番いいです。

2012,江端さんの忘備録

私、ドラマが嫌いで、アニメを見るのが好きです。

嫁さんは、この真逆です。

従って、夫婦でテレビを見るというのは、かなりのレアケースです。

「なんでかな」と考えてみたのですが、アニメというのは、結構いい技術研究ネタが仕込まれているからかもしれない、と考えてみました。

ロボットとか、戦艦とかでは、それなりの機械工学の知識が含まれていないと、理系男子でなくとも、薄っぺらく感じてしまいます。

時空間(タイムトラベル)ものにいたっては、相対論やら量子論までもを配慮したシナリオが記載されているし、遺伝子関係についても相当の専門分野の話が入ってきています。

『見ていると、なんか賢くなった気がする(正確には、分かったような気がする)』という魔力が、(ある一部の)アニメにはあるのです。

特に、私のように、技術ネタでコラムを書く人間にとっては、ネタ元としては、結構、舐めてかかれない程の情報が含まれているんですよ。

・・・というのは、多分建前で、まあ、好きなんですよ、私は。特にSFのアニメは。

ただ、私の嗜好が強すぎて、同時に2つ以上のアニメを継続して見る、ということが滅多にありません。

もっと技術的に難しくて、専門的で、基本的には筋が通っていて、技術者が主人公である。そういうアニメは、なかなかないものでしょうか。

# イメージとしては「さよならジュピター」だけど、映画化だけでなく、アニ化メまで失敗されたら、私は立ち直れない。

さて、それはさておき。

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SF以外のアニメの設定では、「不良」「部活」そして「生徒会役員」を扱うものが多いようです。

部活も、かつてはスポーツ部と決まっていたものです。

しかし、最近では、文系も多くなっていますね。漫研、文芸部、ブラスバンドなどはあったのですが、軽音、古典部、かるた部とか、(すみません。ちゃんと見ていません)

―― すごいダイバーシティだ、と思います。

私の世代から見ると、このダイバーシティ(またはバラエティ)は、とてもうらやましい。

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ダイバーシティと言えば、今や「武装する図書館のアニメ」まであるくらい(すみません。見ていません)なのですから、どうでしょう、いっそうのこと、

○政権党(内閣を含む)と野党を取り扱うアニメ

○島の領有権を争う多国間の思惑を取り扱うアニメ

○列強によって分断された国家を取り扱うアニメ

など、誰か企画してみませんか。

なんか、ツイッターを追ってみると、どうもこの手の話題になると、表層的な感情論で、簡単にヒートアップする内容が多くて、正直うんざりしています。

なんの為に、私達は義務教育や受験で、世界史や日本史の勉強をさせられてきたのやら、と溜息がでてきます。

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「歴史」という教科の存在意義は

(1)過去において、この手の隣国間のトラブルなんぞ腐る程あり、

(2)概ね時間の経過(まあ、3ヶ月も必要ない)で軽く忘れ去られ、

(3)忘れ去られる前に、一部の馬鹿が火をつけて、時々回復不能な事態(戦争等)に発展させてしまったこともあり、

加えて、

(4)外交上「白黒はっきりさせない」という戦略が、過去において相当有効に働いてきた

という史実(歴史的事実)を学ぶものだと、私は思っています。

「いい国(1192)作れず、鎌倉幕府」などという、下らない暗記をすることが、歴史の勉強の目的ではないと思っています。

『今回の事件は、過去のあの事件に似ているなぁ』と冷静に把握し、可能な限りの背景事実を収集した上で、筋の通った論理的な主張をすることは、正しいかどうかはさておき

―― かっこいい、とは思う。

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ジオン公国と地球連邦政府(すみません。ガンダムのストーリー全く知りません)の歴史を知る、その気力の1/10で十分です。

隣国と自国の歴史を勉強してみることは、結構良い方法であるし、現実に必要であると思うのです。

でも、多分そんな、楽しくもないこと、誰もやりゃしませんよ。

ならば、いっそ、アニメという手段で、国際政治な動きの裏側を、軽いノリと笑いで表現して、隣国を理解するというのは、良い方法だと思うのですよ。

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いや、難しくないですよ。

我が国の首相や内閣のメンバ、隣国の大統領や中央政治局常務委員を、全員、

「美少女アニメキャラクター」

として制作すれば足ります(多分)。

半分くらいは、真面目な提案です。

2012,江端さんの忘備録

国会議員は、国民の信を受けて当選を果すものですから、そこに「信」以外の条件、例えば、財力、学歴、知識、体力、健康状態、愛人関係等は、全部無視して選ばれるべきです。

まあ、資産に関しては、

政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律(平成四年十二月十六日法律第百号)

というものがあるようです。

(私の見落しがない限り、虚偽報告に関する罰則がないみたいです。私に間違いがあれば指摘して下さい)

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「資産」の開示も大事ですが、私としては、国会議員の「見識」を開示をして貰いたいのです。

採点なしで結構です。

解答用紙の内容は全部国民に開示される、ということだけで十分です。

内容は、できるだけ簡単な問題が良く、2~3行程度の論述(図入りでも良い)をして貰うもので、全部で50問程度でどうでしょう。

例えば、

「国内法と条約の内容が矛盾した場合の法解釈について述べよ」

「現在の国内GNP,GDPと国家予算の額(概略)を記載せよ」

「死刑制度に関する私見を述べよ(但しノーコメントと記載しても良い)」

とかになるでしょうか。

私としては、この問題を入れて貰えれば、文句はありません。

「軽水炉型原発の構造図を簡単に図示せよ」

「シーベルトとベクレムの違いを簡単に説明せよ(誤植があれば、それを修正して解答すること)」

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まず、年に1回の試験の実施と、または選挙公示前の立候補者の事前試験として、法律で制定します。

勿論、試験問題の流出がないように、国家から完全に独立した第三者機関(というのが可能かどうかはさておき)が管理し、公平に実施します。

点数を付ける必要はありません。

ただ、全国会議員または、立候補者の解答用紙をWebで開示して貰えば十分です。

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この解答用紙は、選挙の時に大変役に立つと思います。

政権放送なんぞ聞く必要はありません。

消去法で簡単に候補者を絞れます。

忘れがちなのですが、国会とは立法機関(法律を作る組織)なのです。法律に関する基本的な知見もない人を選ぶことはできません。

また、行政庁の長となるべき人が、「原発の仕組み」や「放射能の単位」ごときを理解していないとすれば、到底、国政を任せる気にはなりません。

2012,江端さんの忘備録

私が、位置情報サービスの研究を行ってきたという話は、すでに何度か致しました。

この研究を進める上で、最も大変だったことは、技術開発ではありませんでした。

傲って(おごって)いると思われると嫌なのですが、詰るところ、技術というものは、金と人があれば、ある程度まではなんとかなるものなのです。

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位置情報サービスの研究の最大の敵は「嫌悪感」でした。

いわゆる「どこにいるか第三者に知られるのが嫌」という奴です。

「プライバシー」という言葉で良く語られてましたが、この「嫌悪感」なるやつは、まったく異なる観点から、我々の研究を技術開発を徹底的に邪魔しまくりました。

『そんな、プライバシーの侵害になるサービスが流行る訳がない』だの『人格権の侵害』だの、と、まあ色々言われて、研究の邪魔になること、まあ果てしなかったこと。

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私は、その度に思ったものです。

「あんたは、あんたの時間に、突然、予告もなく割り込んで、プライバシーを平気で破壊する機械 ―― 携帯電話 ―― を持ち歩いているが、それは良いのか?」

とか、

「世界中の地図を開示され、さらに自宅の外観写真まで公開されて、大騒ぎしていたのに、今は、もうどうでも良くなったのか?」

とか、

「殆どの駅に、ほぼ間断なく設置されている監視カメラは、あんたの顔を完璧に記録しているが、これは気にならないのか?」

とか。

私が不愉快に思うのは、プライバシーを標榜するくせに、その取扱に一貫性がなく、論理破綻していることです。

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しかし、まあ、「嫌悪感」とはそういうものだということは理解しています。

完璧に論理的であることは、人間であることを否定するようなものでしょうから。

それと、年頃に至ってない娘を持つ父親としては、娘達の位置情報は勿論、電話、メールアドレス、その他、ありとあらゆる情報が、第三者に漏洩することは、やはり心配ではあります。

とは言え、我々の存在している場所が完全に把握され、第三者に共有されることは、時間の問題だと思います。

#Facebookで、私はこれを確信しましたね(後日語ります)。

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では、ここで一つのテーゼを提供してみたいと思います。

世界の全ての人間の位置情報が、全て開示された世界において、何が起こるか?

私には、一つの仮説があります。

「どーでも良くなる」

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我々は他人の行動やプロセスには興味がなくなり、

その人の嗜好や属性も気にならなくなり、

その人と私との間におけるインターフェースだけが重要な要素になる、と。

隠されない(隠すことができなくなった)本人のプライバシーは、本人の属性としての個性と同化します。

その気の遠くなるような膨大な種類の価値観は、もはや、その人が「何を嗜好しているか」という観点を消滅させてします。

ただ、「その人」と「私」の関係性は、「価値があるか/ないか」のみの価値観で支配される世界になる、ということです。

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うーん、これでは良く分からないか。

では、卑近な例ではあるが、実施例を提示してみよう。

例えば、

「ゴスロリの衣装を着ている上司(男性)に、書類の決裁の印鑑を貰いに行く」

「パンクファッションをしている銀行員に、融資の相談をする」

「幼女趣味であることが分っている社長の会社に、入社する」

というイメージでしょうか。

# うーん、上手くないなぁ・・・。まだ私も整理しきれていないのです。

要するに、ありとあらゆる人間としての属性を切り捨てた、究極の「インタフェース社会」の具現化、と言えるものになるのだろう、と考えています。

2012,江端さんの忘備録

『力のない主人公が、様々な苦難に直面しつつも、それらを乗り超えて、最後には成功する』

という、予定調和的なドラマが多いですよね。

でも、時々思うんですよ。

「前向きに、意気揚々として、希望を持って『夢を諦める』ドラマ」ってないものですかね。

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「諦める」とまで言わなくとも、

○「夢」の閾値(しきいち)を下げる
○「夢」のベータバージョンをリリースする
○「夢」を一旦、留保する
○「夢」へのアプローチ、または対象を変更する

ということは、私達が生きていく為に、日常的に、普通に行っていることです。

「夢」を究極に追求するということは、その為に究極的に不利益を詰み上げる覚悟を持つということです。

その不利益とは、恋人ができなかったり、社会的信用を失ったり、収入が得られなくなったり、下手をすると衣食住にも不足する、と言うことです。

私達は、そういう人を、日常的に「バカだ、アホだ」と陰口を叩いている一方で、「下町でロケットの部品を製造している話」に感動します。

ぶっちゃけて言えば、

「夢」は叶うことで、遡及してプロセスが評価され、
「夢」が叶わなかったら、一生バカにされ続ける、

と言うことです。

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「夢を諦める」ことは、もっと前向きに、もっと高く評価されるべきだ、と思うのです。

そして、

『私は自分のやりたいことが分からない』

という若い方達に、

「大丈夫。殆どの人が『分っていない』。そして、殆どの人が、別段、やりたいことを目指して生きている訳でもない」

と、きちんと教えて上げたいと思うんですよ。

その為には、「ドラマ」は、てっとり早い手段かな、と。

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♪あなたの夢を諦めないで~(岡村孝子)

と言う歌があります。

私も、何度か、そういう内容の手紙を貰ったことがあります。

でも、突っ込んでしまうんですよ。

「お前はどうなんだ?」

って。