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江端さんのひとりごと
「遵法精神って何?」

Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:02:12 JST 1996

学生の街である京都では、学生は通学に原付やバイクを使う事が多いので、一時停止や、ネズミ取りで捕まえる学生は、警察に取って格好の鴨であり貴重な財源と言えました。

私は学生の頃、私は運転免許停止(免停)になったことがあります。罰則点は一年でクリアされるのですが、私はあと一月と言う所で、白バイに追いかけられたり、一時停止地点の死角で張っていた警察に捕まったりして、なかなかクリアできないでいました。

そして、速度100km/hオーバーと言うような気合いの入った『一発免停』とは違い、もっとも情けないと言われる『積もり積もって免停』と言う事態に陥った訳です。勿論友人から『愚か者』呼ばわりされたことは、言うまでもありません。

免許停止期間は3ヶ月でしたが、初回に限り講習会を受ける事で一日だけにすると言う美味しい制度がありましたので、早速、長岡京にある運転免許試験場に出かけて、講習会を受けてきました。

講義の前に簡単なペーパー試験があり、その中にはこんな問題がありました。

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自分が免許停止になったのは、運が悪かったからである。
はい   ・   いいえ
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私はこのような免停になった自分を省みて、非常に謙虚な気持ちで講習会に来ていましたので、なるべく澄み切った正直な気持ちで答えるべきだと考えました。

ですから、『はい』を丸で囲んだのは言うまでもありません。『つもりつもって免停』になる私が、運が悪い以外の何者でありましょうか?

講習会の後で、得点とコメントがついた解答用紙が帰ってきました。そこには『あなたは遵法精神に欠けています。』と書かれてありました。

遵法精神とは、文字どおり法を遵守する精神を意味します。法は、国民の代表者によって選ばれた者によって制定され(立法)、それを裁判所が司ります(司法)。法を犯す者にはそれを取り締まるため、法の番人(警察)によって法の定めるところに従って力を行使する事ができます。

このシステムは、日本を始め多くの民主国家で採用されています。

もう一度、あの問題を思い出して見ました。つまり、『自分が免許停止になったのは、遵法精神が欠落していたからである』と言う問題であれば、よく分かったのに、と思っていました。

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ところが、そもそも私には『遵法精神』と言う考え方がありません。

そもそも私はアウトロー(Outlaw)ならぬマイロー(My Law)が信条の人間なのです。といってアナーキストでも況やテロリストや無法者と言うわけでもありません。

いわば"I am a law"(私が法だ。)という考え方がぴったりくるかな、と言う感じがします。

『もっと悪いじゃないか!』と言わないで下さい。

なんと言っても、私は私の法を制定できても、私の法を他人に行使させるような強制力をもっていないのですから。

では、どうして日本の法の庇護の元で生きているか、と尋ねられれば、それは日本国の法律と私の法が、すさまじく酷似しているからです。

定量的に測る事ができれば、多分99.9999%以上は一致していると思います。ですから、私は非常に面倒くさい法の制定と執行を日本国に代行して貰っていると言う考え方が一番近いのではないかと思います。

不幸にして日本国の法律と私の法が一致しない場合は、当然私の法が優先します。なにしろ私にとって、私の法は絶対ですから。

と言う訳で、私が国の法に従っている全てに関して、私は卑屈になることなく国の庇護を要求します。

しかし私と国との間にすれ違いができた場合、私と国は闘争状態になっていいと思っています。その時、国は全力を上げて私を潰しに来ても構いません。

来なさい!

私も精いっぱいの力を用いて、それに刃向かう事でしょうから。

私個人としては、国の法と私の法とのすれ違いが半分より大きくなった時に、革命を起こし、現行政府を転覆させようと思っていますけど。

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さて、このようにしつこいくらいに私の立場を大げさに表明してからおいて、いったい何を書こうとしているのか。多分、あなたのご想像の通りろくなことではありません。

これから私の書く事は、あなたの使い方によっては江端の将来を容易に破滅させる事ができるかもしれません。

そして江端から報復を受けることを心配して、できるのなら係わりたくないと思っていらっしゃるのでしたら、悪い事はいいません。ここで読むのを止めましょう。

触らぬ江端に祟りなしです。

(と言っても、止める人は、いやしないんだろうが。)

では、江端さんのひとりごと、今日は『やさしいお酒の作り方』です。

https://www.kobore.net/tex/alone93/node37.html

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江端さんのひとりごと

「危ない漂白剤」

大学で4年、大学院で2年、就職して2年。

一人暮らしも9年目に突入すると、男と言えども家事に精通してくるものです。

料理、掃除などもそうですが、洗濯でも、色柄ものとそうでないものの仕分けなどは当然できなくてはなりません。でないと真っ赤なジャージと一緒に洗濯して、ピンク色のYシャツを作ってまうことになりますし、しっかり乾かしてから保管しなかったために、タンスの底にくっついて離れないブルゾンを呆然と眺める羽目になります。

さて、衣類の洗濯には、水よりもお湯を使った方が汚れが落ちるようです。これはお湯を使った方が、洗剤を『活性化』しやすいからですが、同じように、コップやふきんを消毒するときに用いる漂白剤も、お湯の方が早く汚れを落とすことができます。

この前部屋の掃除をしたとき、ついでにコップなどの漂白もしておこうと思い立ち、部屋にある全てのガラスのコップや金属のコップに漂白剤を溶かした漂白液を作って、コップ一杯なみなみと入れておいておきました。こうして小一時間ほど放っておけば漂白はできるのです。

ふと私はちょっとした『活性化』の実験がしたくなりました。

それは「金属性のコップを直接火にかけて、漂白液を煮立てれば、凄く速くコップの漂白できるのではないだろうか?」と言う極めて素朴な疑問でした。寮では火気の使用が禁じられ、普段私は電磁調理器を使っていましたから、私はこの電磁調理器の上に直接、鉄でできたコップを乗せて、コップごと漂白液を煮立てることにしました。

2分もないうちに、あのプール独特の塩素の匂いが部屋中に立ちこめてきました。コップの中を覗いてみると、すでに汚れはすっかり落ちて、新品同様の美しさになっていました。結果に満足した私は、もう2、3分だけ煮沸を続けて様子を見ることにしました。

しかし、何だかどんどん頭がガンガンと痛みだして、息苦しくなってきました。そして、ようやく大変なことをしでかしたことに気がついたのでした。

「しまった!、次亜塩素酸ナトリウム!!」

有毒ガスの一つであり、かつては殺人兵器としても使用されたことのあるこの物質は、漂白剤だけでなく水道水にも消毒用として微量使用されているものの、その原液を煮沸なんかしたら、この部屋は実に理想的なガス室と化してしまいます。私の脳裏には、ナチスドイツ時代のアウシュビッツの写真がぼんやりと浮かび上がりました。

やばい!と思い、慌てて窓に駆け寄ろうとしたものの、ふらふらして思うに任せません。ようやく窓にたどり着きおもいっきり窓を全開し、急いで2、3回深呼吸をして、電磁調理器のスイッチを切るやいなや、泥酔した酔っぱらいのようにふらふらになって部屋の外に逃げだしたのでありました。

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これは、私にとってかなり恐い経験の一つでありますけど、今になって考えると、もっと現実的な恐怖を感じずにはいられません。

新聞の見出しに
『2×歳、研究員。家庭用漂白剤を煮沸。自分の部屋で窒息死。』

世間の笑い物です。

(出展:https://www.kobore.net/tex/alone93/node20.html)