「特許明細書のロジック」の説明の仕方

「特許明細書のロジック」の説明の仕方

「特許明細書のロジック」の説明の仕方

2010/09/17

1. 背景と目的

(1)後僚より、『知財担当者から、「特許明細書作成のロジックを説明しろ」と、言われたけど、なんのことか分からない』と相談された。

(2)そこで、江端が独断と偏見に基いて確立した「特許明細書のロジック」を開示する。

(3)なお、本内容は、知財担当者(弁理士を含む)にも開示したが、少なくともクレームは受けなかった(ように思う)。

従って、内容的には大きく外れてはいないのだろう、と考えている。

2. 知財担当者からの要請

知財担当者殿より、『「特許明細書のロジック」を説明する場合には、以下のように説明して欲しい』との要請を受けている。

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先ほど、「背景技術→背景技術の問題点→本発明」と書きましたが、
詳細には、下記の点についてご説明頂きたくお願い致します。

(Step.1)発明のバックグラウンドとなる分野の説明
   	↓
(Step.2)その分野における一般的な課題の説明
    	↓
(Step.3)公知例がどのように上記課題を解決するかの説明
    	↓
(Step.4)その公知例でも解決できない課題の説明
    	↓
(Step.5)それをどう解決するかの説明(*本発明のロジック)

*本発明について、代表となる図を記載して頂けると助かります。
====================================================================== 

3. 江端の付帯説明

(面倒なので、以下メールより抜粋)

知財担当者殿のフローチャートの内容は完璧なので、そこに、私が具体例を書きます。

私はこういう風に書いてきて、発明検討会を何十回も突破して、(分割と共同を含めて)100本以上の明細書に関わってきたのですから、

先ずは、黙って、私を信じろ

(1)発明のバックグラウンドとなる分野の説明

 
  (ポイント:ここは「技術」を書くな)
 
   ○有線でやっていたメータリングを無線でやろうとする試みはあった。
   ○が、「メータおばさん」のコストの方が圧倒的に安かった。
   ○近年、無線のリソースが滅茶苦茶安くなってきた。
   ○「メータおばさん」の産業構造が崩れる可能性がでてきた。
   ○アドホックに関する技術も、かなり溜ってきた。
   ○実験ネットワークで、華々しい報告もある。
   ○太陽光発電とか、未知のシステム構成要素が入ってきている。

(2)その分野における一般的な課題の説明

 
   (ポイント:「技術」を書いても良いが、基本的には「金」「不安」で良い)

   ○事業的困難性
        インフラコストが高い、設置面倒、メンテ面倒、保守コスト試算困難、
        事業主体が不明瞭、金主が不明、ビジネスモデルが作れん

   ○技術的困難性
        無線に対する信頼性がない(本当にない)。実績がない。

   ○失敗時のインパクト
       課金不公平→暴動→政権倒れる→革命(というのは冗談だが)              
       深刻な社会不安、インフラに対する信頼性の下落

(3)公知例がどのように上記課題を解決するかの説明

 
   (ポイント:他人の文献公知発明を褒め称える)

    ○A社の特許文献1は、アドホックを自由に構築できる。
      上記の技術的困難性を見事に解決できる。素晴しい(と褒め称える)。

    ○B社の特許文献2は、無線をこんなに高信頼にして、社会インフラレベル
      にもっていける。
      上記の失敗時のインパクトを見事に回避できる。
      実に素晴しい(と褒め称える)。

    ○C社の非特許文献1は、これらを低コストで製品化している。誠に素晴
      しい(と褒めちぎる)
      上記の事業的困難性を解決できるではないか。
      涙が出そうな程、見事である(と褒め称える)。

【特許文献1】特開2007-278XXX号公報
【特許文献2】特開2002-132XXX号公報
【非特許文献1】「XXXXX」、Ebata Inc..[online][平成20年4月7日検索]、
                インターネット

(4)その公知例でも解決できない課題の説明

 
   (ポイント:褒め称えた発明を、掌を返して、鬼のように非難する)

    ○しかし、よくよく見るとA社の特許文献1は、×××はできないし、△△
      △はできない。カスな発明である(と、罵しる)

    ○また、B社の特許文献2は、★★★★★はできないし、■■■■■はでき
      ない。こんなものが現実世界で使える訳がない(と、嘲笑う)

    ○それに、C社の非特許文献1は、安いだけで、絶対必要となる○○○と
      いう機能がなく、お話になりゃしない(と、コケにする)

(5)それをどう解決するかの説明(*本発明のロジック)

 
   (ポイント:自分の発明を絶賛する(弱点については黙っている))

   ○ {俺の/あたしの}発明は、こういう内容だ(*本発明のロジック)。
      (ここで技術の話が始めて登場する)

   ○A社の特許文献1の問題点である、×××を解決し、△△△を可能とする。
      この発明は完璧だ(と、自己陶酔する)

   ○またB社の特許文献2の弱点である、★★★★★もできるし、■■■■■
     もできる。この発明は凄すぎる(と、自画自賛する)

   ○加えて、C社の非特許文献1が具備していない機能を、{俺の/あたしの}
     発明は持っていて、産業上の利用性も完璧!(と、誇大妄想する)

   ○以下、その理屈をお前達に、説明してやるから、実施例を見ろ!!!
     (以下実施例に続く)
とりあえず、こんな風に乱暴に理解して下さい。 ロジックとは、ようするに「物語」です。

(6)その他

江端が発明を評価する場合の評価方法は3つです。

(1)コスト(製造、メンテ、人材)が 1/10になる。

(2)性能(速度、メモリ、ハードディスク等)が10倍になる。

(3)上記(1)(2)に該当しなくても、(こじつけでも)「億円」の単位で儲かる。

これを、私は『特許発明 10分の1、10倍の法則』と名づけています。

『5%向上』程度なら出願やめとけ、と言っています。学生の研究ではないのだから。

また、ソフトウェアのアルゴリズムで、到底外部から発見できないようなものならやめとけ、とも。

書くだけ無駄です。侵害を立証できませんから。

# 山程書いてきた私が言っているのだから間違いない。

では、頑張って下さい。

以上

2020/08,江端さんの技術メモ

Posted by ebata